II.レビスインスリン及びC-ペプチド測定キットについて

 

1.レビスインスリン測定キットはどのように設計されているか?
 プレートに抗インスリンモノクローナル抗体(マウス)を固相化しておき,検体中のインスリンをこれに結合させた後,インスリンの別な部位を認識するビオチン標識抗インスリンモノクローナル抗体を反応させ,ペルオキシダーゼ-アビジン結合物を加えてビオチンに結合させ,最後に色原性基質を加えて発色させることによりインスリンを測定します. 実際にはビオチン標識抗インスリン抗体とインスリンの結合,及び固相化抗体との結合反応を同時に行っております. C-ペプチドも同様な設計です.


註)Biotinとavidinについて
 Biotin:どの細胞にも存在する一種の成長因子で、ビタミンB複合体のひとつで、ビタミンHとも呼ばれる。炭酸固定やカルボキシル基転移反応に関与する酵素の補酵素として作用するのでCoenzyme R(R)ともいう。脂肪酸、糖代謝に関与し、欠乏すると皮膚炎になる。
 肝、腎、膵、イースト、ミルクに多く存在する。

Avidin:生の卵白から単離された塩基性糖タンパク質である。鳥類、両生類の卵管で作られる。4個の本質的に同じアミノ酸128個からなる単鎖(N端アラニン、C端グルタミン酸)のサブユニットで形成され、分子量は約66 000である。熱処理や放射線照射で破壊される。
Avidinはビオチンと結合し、ビオチンを不活性化する。それぞれのサブユニットは1個のビオチンを結合できる。解離定数Kd=10-15 M(抗体よりも強い結合能と言える)。
 大量の生卵白をラットや鶏に与えると、ビオチン不足に陥り、皮膚炎や成長抑制を起こす。この作用はビオチン投与で抑制できる。
このようなビオチンとアビジンの特異的結合性をアッセイシステムに利用しているのです。

2.レビスインスリン及び関連物質測定キットにはどのようなものがあるか?
 -対象動物種,特異性,測定感度,関連物質(C-ペプチド)などからの分類-
 弊社のインスリン測定キットにはいくつかの種類があります.それらを分かりやすく分類してみましょう.
対象動物からの分類
ラット用:TMB(溶液タイプ)
     高感度測定キット(Uタイプ),(U-Eタイプ),高濃度測定用(Hタイプ)
     特異的測定キット(Sタイプ)
マウス用:TMB(溶液タイプ)
     高感度測定キット(U タイプ),高濃度測定用(Hタイプ)
     特異的測定キット(Sタイプ)
イヌ用:TMB(溶液タイプ)
ブタ用:TMB(溶液タイプ)
サル用:TMB(溶液タイプ)
を提供しております.
このほかに,ウサギ,ハムスター,ウシのインスリン測定用に標準品を提供しております.
これらの標準品を,ラット用のキットと組み合わせて使用することで,ウサギ及びハムスターの試料の測定が可能となります.

特異性からの分類
 通常インスリン測定キット(Sタイプを除く全てのキット):このキットはインスリンとプロインスリンの双方に対して交差性を示します.血液中には通常プロセッシングされた新のインスリンのほかに少量のプロインスリンが放出されております.プロインスリンの放出量は通常インスリンと平行しますから,血液中のインスリンの変動を測定するにはこのキットで通常は充分です.
 インスリン特異的測定キット(Sタイプ):プロインスリンとの交差性が非常に低いので,実際上インスリンのみを特異的に測定することが出来るキットです.プロインスリンが異常に高くなるような状況の中でインスリンを測定できるという長所があり,プロインスリンのみの変動にインスリン測定値が影響されず,通常キットでの測定値の差を考慮することでプロインスリンの放出量を推定できます.

註)プロインスリンについて
プロインスリンはゴルジ装置から分泌顆粒に移行する過程でインスリンとC-ペプチドとなりますが,この際分泌顆粒には,分解し残りのプロインスリンも少量存在し,顆粒が分泌される際に共に血中に放出されます.プロインスリンの生理活性はインスリンの5 – 10 %であると言われております.
 血中のインスリンやC-ペプチドを測定しようとすると,一般的にはこのプロインスリンも測定してしまうことになります.立体的形状を無視して考えれば,プロインスリンは,インスリン及びC-ペプチドの全てのアミノ酸配列を包含しているからです.
そこで,血中のインスリンを免疫学的測定法で定量した際は,IRI(immuno-reactive insulin)と呼んでインスリンそのものと区別しております.したがってIRI値にはインスリン値のほかに抗体と反応したプロインスリン値も包含されることになります.

IRIに含まれるプロインスリンの量
 人のデータからインスリンとプロインスリンの割合をざっと計算してみましょう.
プロインスリンの分子量は約9400,インスリンは5800(分子量の比は1 : 0.62となります),インスリン1 mg = 24 Uとして計算してみましょう..
プロインスリンの正常値(空腹時)は3.3~10.1 pmol/L(Hampton, 1988) という報告があるので,
1 pmol/Lは重量に直すと9400 pg/L=9.4 pg/mLですから,
 正常値は 31 ~ 95 pg/mL,平均値は63 pg/mL
これを分子量の比からインスリンに換算すれば39 pg/mL
インスリン(IRI)の正常値(空腹時)は8 ~ 11 μU/mL=333~458 pg/mL,平均値を396 pg/mLとすれば,この測定値にプロインスリンが含まれているとすれば約10 %となります.

インスリンに対するプロインスリンの割合は変動するのか
ヒトでの臨床研究報告によれば,血中プロインスリンの量はいろいろな場合に増加を示すと言われております.
○NIDDM(II型糖尿病)
 空腹時やグルコース負荷時,共に血中プロインスリンレベルは健常者に比べて高く,インスリンに対する割合も増加している.空腹時血糖値が高い場合や肥満の際にはこの傾向は顕著となる.高血糖による持続的なインスリンの分泌が未成熟分泌顆粒まで放出される可能性が考えられる.
○IDDM(I型糖尿病)
 未治療患者の場合にはインスリン合成不全のために血中プロインスリン値は低下しているのであるが,多くの患者はインスリン治療に伴う抗体の形成があって,血中プロインスリンレベルが高くなる.即ち抗体がプロインスリンと結合することで代謝が遅れるためであると考えられる.インスリン治療前でも抗体が存在することがあり未治療患者でも高値を示すことがある.

○肥満
NIDDMの場合と同様,インスリンの放出過多による生合成-分泌プロセスのアクセラレーションが未成熟顆粒の放出をもたらしているのであろう.
○インスリノーマ
インスリンやC-ペプチドの上昇よりも高プロインスリン血症が歴然と現れるのでインスリノーマの診断に有用とされている.
○家族性高プロインスリン血症
 遺伝的にプロインスリンからインスリンへの転換酵素の異常やプロインスリン遺伝子の異常により転換酵素の作用を受けないプロインスリンが作られるなどが原因で,分泌顆粒中のIRIの大半をプロインスリンが占める.
○甲状腺機能高進
 甲状腺ホルモン過多による糖新生に伴う血糖上昇がインスリン産生放出を促進し分解し残りのプロインスリン放出も多くなる.

 以上非常に特殊な場合もありますが,多くの場合プロインスリンのインスリンに対する割合は,インスリン生合成過程の状況を反映している可能性があります.

測定感度からの分類
 一般的測定感度キット(TMB):通常取り扱われる動物での血中インスリン測定に適しているキットで,動物種を問わず,0.156 – 10 ng/mLで標準曲線が描けます.
 高感度測定キット(Uタイプ,U-Eタイプ,Sタイプ):弊社ではラットとマウスに関しては,特にUタイプという高感度測定キットをご提供致しております.このタイプのキットは,絶食時の動物血清について精度の良い測定が出来るように改良したものです.その測定範囲はラットでは25 – 1500 pg/mL,マウスでは39 – 2500 pg/mLとなっております.ラット用のインスリン高感度測定用のUタイプは測定に要する時間が長いので,測定時間の短縮と高感度を達成した改良製品がU-Eタイプで,測定範囲は39 – 2500 pg/mLです.
インスリン特異性の高いSタイプの測定感度は,ラットでは100 – 10 000 pg/mLマウスでは78 – 5000 pg/mLを実現しており,一般的測定キットよりも高感度となっております.
 高濃度測定キット(Hタイプ):モデルマウスや膵島細胞の培養液など,高濃度にインスリンが含まれている試料のために0.5 – 100 ng/mLの測定が可能になっております.

関連物質:C-ぺプチド測定キット
 弊社では,インスリンと密接な関連のあるC-ペプチドの測定キットをマウスとラットについて提供しております.
インスリン部分のアミノ酸配列はマウス,ラット共通ですが,C-ペプチドの部分は多少違います.
 C-ペプチドはプロインスリンから分離したあと,インスリンとともに分泌されます.
 C-ペプチドは長い間生理作用がなく,インスリン整合性の過程においてA鎖とB鎖が正しい形で折りたたまれ,正しい組み合わせのSS結合ができるようにする作用のほかには生理作用は特に無いと考えられていましたが,近年の研究の積み重ねにより様々な生理作用のあることが明らかになって来ました.まずC-ペプチドは10-9 M程度で内皮細胞,腎尿細管細胞や繊維芽細胞の表面の恐らくGタンパクにカップルした受容体に結合し,カルシウムイオン依存性の細胞内シグナルを活性化すること,Na-K-ATPaseを活性化し,内皮細胞のNO合成を促進すること,受容体との結合には立体的特異性があり,インスリン,プロインスリン,IGF-I, -II,NPYとの交差性がないことが示されています.またC-ペプチドを欠いているⅠ型糖尿病患者にC-ペプチドを投与することにより,骨格筋と皮膚の血流が増強され,腎糸球体のhyperfiltrationを低下させ,尿中へのアルブミンの排泄を抑制し,神経機能を改善するが健常人には作用が現われないことが示されています.このことはⅠ型糖尿病患者にはインスリンのみでなくC-ペプチドの同時投与が合併症の阻止に有用であることが示唆されます.
 C-ペプチドのC末端部のペンタペプチド(37-31)が受容体との結合に重要で,この部分の欠如したdes(27-31) C-peptide はその作用を失うとされています.このペンタペプチドはC-ペプチドと受容体との結合を完全にreplaceすることができ,Na+-K+ATPaseを活性化します.Des(27-31) C-peptideの存在量はは新生児ラットではC-ペプチドの約37%,成熟ラットでは8.5%を占めるという報告があります.
 C-ペプチドの血中における寿命がインスリンよりも数倍長いという特徴を持ちます.そこで,C-ペプチドの血中レベル測定は臨床的にはインスリン合成、分泌機能を観察するのに用いられます.また尿中に多量に排泄され,血中のレベルとよく相関することから,尿を試料として測定することも出来ます.
また,インビトロで培養されたランゲルハンス島(膵島)からのインスリン分泌の指標としてC-ペプチド測定は有用です.なぜなら,培養液にはインスリンが添加されることが多いので,その場合培養後培液中のインスリンを測定すると,分泌されたインスリンと添加されたインスリンの区別がつかなくなってしまい,培養開始時の量を差し引かなければなりません.その場合,分泌されたインスリン量が少ないと測定誤差の影響が大きくなり正確な判定が出来なくなります.この時,C-ペプチドを測定してやれば,インスリンと等モルで分泌されますから,分泌されたインスリンを正確に判定できるというわけです.
 当社のキットはC-ペプチド1,2の共通部分を認識しますので,トータルのC-ペプチドが 測定されます.
マウスC-ペプチド測定キットの特異性についての具体的データはキットの特異性の項をご覧下さい.

インスリン測定キット交差性試験の総括
 下記のように全て同じような結果を示しております.即ち,調べられた範囲のC-ペプチドは認識しません.他種動物のインスリンについては,程度の差はありますが,交差します.
プロインスリンに関しては,Sタイプは非常に交差性が少なく,それ以外のキットは,標準試料の関係上ラット及びヒトプロインスリンしか調べられておりませんが,おそらく同種のプロインスリンも交差するものと思われます.

未試験は検体を入手次第試験する予定.

個別キットの交差性

レビス インスリン-ラットT 交差反応性試験

 註:イヌインスリン精製品をラットインスリン用のキットで測定した場合には,下記の如く一定の反応率を示しません.
10 ng/mLの時 120 %
5 ng/mLの時 100%
1 ng/mLの時 120%

レビス インスリン-マウス(TMB) 交差反応性試験

高特異性インスリン測定キット(ラット Sタイプ)の特異性
ラットプロインスリン添加試験

交差反応
高特異性インスリン測定キット(マウスSタイプ)の特異性

マウスプロインスリン添加試験

交差反応

同一検体を測定した際のSタイプとTタイプの相関と測定値の差
ラット血清検体測定結果

マウス血清検体測定結果


 図に示されているように,ラット(R=0.9946),後出のマウス(R=0.9868),いずれの場合にも通常キットと高特異性キットの間には高い相関性が見られます.一方回帰直線の勾配は,ラットでは1.209 (標準誤差=0.028),マウスでは1.198となり,通常タイプと比べてS-タイプはほぼ20 %低い測定値を与えます.この差がそのままプロインスリンの存在比を示すのかどうかは別に証明する必要があると思われますが,一応特異性が絞られた結果であると考えて差し支えはないでしょう.
 このように弊社の高特異性キットは,プロインスリンの変動に影響されず,インスリンに関して,より信頼性の高い測定を可能にするものです.

ラットC-ペプチド測定キット(Uタイプ)の特異性


*交差率は、3000 pg/mL時のデータです。

マウスC-ペプチド測定キット(Uタイプ)の特異性